
2006年夏にギャルリー東京ユマニテにて開催した太田麻里の個展『“my diary”』の期間中、毎日行われた太田のパフォーマンス映像を収録したDVDを発売中です。
- 取扱店舗
shinbi(京都)
森美術館ミュージアムショップ(東京)
ギャルリー東京ユマニテ(東京)
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パッケージ内容
- タイトル
- MARI OTA “my diary”
- 収録時間
- 約65分(テキストと写真を掲載したブックレット付)
- 価格
- 3,000円(税込み)
- テキスト
- 名古屋 覚(美術ジャーナリスト)
- ビデオ撮影
- 菊地容作 野原大介
- 写真撮影
- 三宅寛治 佐々木康太
- 編集制作
- 加藤文崇(les contes)
- デザイン
- 伊藤太一郎(tito design)
- 協力
- ギャルリー東京ユマニテ
- 発行
- 太田麻里


生な日常を突き抜ける表現者
このDVDを見て、何を感じるだろうか。
誰の目にも可愛い若い女性が室内を歩き回り、手に持った容器の飲み物を口に入れるかと思えば盛大に床にこぼし、自分の体に浴びせ、洗面器に注いで足を浸す。やがて、びしょ濡れの服のまま何事もなかったように部屋から立ち去る……。
「部屋」は2006年夏の2週間、太田麻里の素描(ドローイング)の個展「my diary」が開かれていたギャルリー東京ユマニテのメイン展示室。そこで太田が会期中毎日披露し続けたパフォーマンスの様子である。飲み物は日替わりで葡萄ジュース、コーヒー牛乳、野菜ジュースなど。飲み物とともにシャンプーやマニキュアを持ち込んでちょっとだけ体に付け、残りは無駄遣いしてみせたりもした。アイスキャンディーを床にばら撒いた日も。画廊の床は何色ともつかない液体の跡で覆われ、3日目の冷たいコーンスープの後、すえた臭いが外まで漂い始めた。そんなことは意に介さない太田は毎夕、画廊の裏手に自分で借りたウイークリーマンションを出、近所で買った飲み物などの袋を手に時間ぴったりに画廊に現れ、一緒に持参した数枚の素描を壁にテープで留め、「平均律クラヴィーア曲集」のCDをかける。そして素描を描くのに使う原稿用紙を展示室に据えられたベッドの周りに撒き散らしてから液体の容器を手にし、約10分間の“儀式”を始める——。
人は毎日、寝起きし、飲み食いし、体を洗い、仕事をする。太田はそんな日常の一部を極端に拡大して演じ、日々の繰り返しの痕跡を残した。最終日は初日と同じ服装と飲み物で登場するも、展示室の汚れから同じ日は二度と戻らないことを確認した。ちなみに素描は油画専攻の太田の本来の仕事で、今回の展覧会では約70枚が展示された。描かれていたのは人、動物、飛行機、何か分からない形……。非常に興味深いものがあったが、ここでは詳述しない。
さて。ジュースやスープの一口さえ得られず死んでゆく人が多くいる世界の現実に向かって、太田の行為は何を訴えられるのか。人の日常といっても、使われる飲み物などに「女の子」の側面が出すぎではないか……。感想は色々だろう。そもそも太田自ら「未熟すぎる」と断っている発表だった。
しかし、その「未熟」さ——思いついたままを全身で形に移す、生(なま)な表現——によって、パフォーマンス当時23歳の太田は日本の同世代の表現者たちの居場所から一歩突き抜けたといえる。今展は東京の10画廊が同時開催した若手作家展「新世代への視点2006」の一環だったが、それら10の個展のなかで太田展は、その大胆さ、特異さで圧巻だった。たとえ独り善がりや浪費であっても、表現者としてのやり方があることを、太田は知っていた。
彼女にもこんな時代があったんだと、この映像を見直す時が、きっと来る。
名古屋 覚(なごや・さとる 美術ジャーナリスト)